あなたの落とした願いごと

滝口君が声を掛けてくれなかったら、多分私は、


(マイナスな事は考えない!)


そのまま良くない事を考え出しそうになった私は、慌ててそれを制御する。


ようやく待ち焦がれていた場所に来たんだ、8年前の事は全て忘れて今という瞬間を目いっぱい楽しもう。


思いを新たにした私は、水の中にこよりをそっと沈めた。



「滝口君上手すぎるよ、何で2つも取れるの?」


「俺は、ヨーヨーの輪に引っ掛けられずにこより切った奴初めて見たわ」


結局、言い出しっぺの私はヨーヨーを1つも獲得出来ないまま惨敗。


運良く2つのヨーヨーを釣り上げた滝口君から1つを貰い、その場を後にしながら不貞腐れていた。


「私だって、昔此処に来た時はヨーヨー釣れたのに…。腕が鈍っちゃったのかな」


「ガキかよ。てかお前、此処の夏祭り来た事あんの?」


真っ白なヨーヨーを手の平に当てていると、不意にそう質問された。


「小学3年生の頃に、家族とね」


今から数えて8年前だね、と言いながら、滝口君も8年間夏祭りに来ていないと言っていた事を思い出した。


「滝口君も、8年前が最後なんでしょう?」


彼の空いた方の手には、赤いヨーヨーがぶら下がっている。


「ああ。…お前が前に来た時、1番思い出として残ってるのって何?」


滝口君の8年前の事をもっと聞きたかったのに、やんわりとはぐらかされた気がした。