あなたの落とした願いごと

「っ、」


その幻覚があまりにもリアルで、道の真ん中で思わず立ち止まった。


「何か欲しいもんあった?」


くるりと私の方を振り返った滝口君が、繋いだ手に力を込める。


「あ、」


弾かれたように顔を上げるも、私と目線がかち合ったのはいつもののっぺらぼう。


駄目だ、どうしても、貴方の顔が分からない。


「どうした」


私の顔が余程酷いのか、彼の顔がどんどん近付いてくる。


それに比例するように私の目は見開かれ、周りの景色が一気にズームアウトされて…。



「しんどい?」



彼の静かな言葉で空気が揺らめき、私ははっと我に返った。


「えっ、何で?私全然大丈夫、あ!これ一緒にやらない?」


取り繕うように笑いながら、私は斜め前にあったヨーヨー釣りのお店を指さした。


「別に良いけど」


滝口君の声色は元に戻っていて、私も何事も無かったかのように彼に向かって手招きをする。



でも、危なかった。


ヨーヨー釣りのおじさんに小銭を手渡しながら、私は1人胸にごちる。


さっき見えたのは私のトラウマの片鱗で、危うくその沼に片足を突っ込む所だったのだと思う。


今朝、兄は私が家を出る直前まで、トラウマのフラッシュバックが起きる事を心配していた。


私は大丈夫だと言い張ったけれど、まさかこんなにも早く異変が起きるなんて思ってもいなかった。