あなたの落とした願いごと

「後で会おうねー!ばいばーい!」


後ろから聞こえてきた高い声に釣られて振り向くと、こちらに向かって手を振るエナの姿が見えた。


彼女が私にだけ分かるように親指を立てて見せたのは、いつかの更衣室で話した事を有言実行したという喜びの表れ。


彼女が恋のキューピットかは分からないけれど、彼女達のおかげで2人きりになれたのは紛れもない事実だった。




手を引かれ、彼の半歩後ろを歩いてしばらく経った。


滝口君はただ迷惑者の空良君と距離を置きたかったようで、特に行く当てもなさそうだ。


遠くからは祭囃子の音楽が聞こえてきて、滝口君の弟が演奏しているのかな、なんて思いを馳せる。


そのまま歩いていると、いつの間にか私達の左右に沢山の屋台が現れ始めて。


横からは美味しそうな食べ物の匂いと共に声を張り上げるお店の人、周りには同じような浴衣を着た親子連れやカップルが歩いていて、

前からは、どこかの屋台で獲得したらしい大きなスーパーボールを手にした子供達が、走って私達の間をすり抜けて行く。



『お兄ちゃーん!何処に居るのー!?』



(えっ、)


不意に、その子供達の中に、8年前に家族の姿を探し求めて泣きじゃくっていた自分の姿が見えた気がして、息を飲んだ。


幼い私は後ろを向いていて、

それが当たり前かのように、首から上は消え失せていた。