あなたの落とした願いごと

「まあ、こいつは皆に顔と名前知られてるだろうけど」


続けて空良君は、まるでこの学年の人なら誰でもこの人の名を知っていると言いたげに補足した。


(えっ?)


ちょっと待って、急にそんな事を言われても。


私は空良君がエナの彼氏なのは知っていても、彼の交友関係まで把握しているわけではない。


もちろん同学年の男子で名の知れた人は何人か居るけれど、生憎誰が誰だか分からないから私の中ではその名前だけが独り歩きしていて。


「えっ、と、…」


ごくり、と、唾を飲み込んだ。



とにかく何か言わないと、と焦りながら、私は隣の席に座った男子を頭からつま先までそっと観察する。


容姿から特徴を掴んで、自分の出会ってきた人との特徴と照らし合せる。


それが、私なりに人を見分ける為の術。



まず初めに視界に飛び込んできたのは、レモン色、という表現がぴったりな金髪。


何度もブリーチを繰り返したであろうその髪は、とても印象に残る。


制服は校則通りに着用していて、上履きも普通の学生が履くものと同じ系統のもの。


背は私より少し高くて、机の横に掛けられたリュックは青色で、有名ブランドのロゴが入っていた。



けれど、


(…駄目だ。私、こんな人知らない、)


ものの数秒で特徴と言える特徴を全て捉えた私は、心の中で息を吐いた。