あなたの落とした願いごと

直後に聞こえてきた台詞に反応して彼女の方を見ると、白い歯が覗いているのが見えた。


エナ、笑ってる。


もちろん見なくても分かるけれど、人が笑顔になっているのを少しでも視界に収められるというこの嬉しさに越したことはない。


「こちらこそ」


私も、そんな彼女と同じ表情を浮かべてみせた。



そうして神社に近づくにつれ、本格的に人も多くなってきて、街頭にいくつもの提灯がぶら下がっているのが見え始めた。


雑踏とした雰囲気に早くも飲み込まれそうになって、ごくりと唾を飲み込んだ時。


「あーっ!2人共こっちこっち!」


もう目と鼻の先となった滝口神社の大きな鳥居の目の前で、こちらに手を振りながらぴょんぴょんと跳びはねている人が目に止まった。


人の目を気にせずにそんな事が出来るのは、最早空良君しか居ない。


「何してんのよ…」


案の定、私の隣にいるカップルの片割れは、せっかく美しいお団子にして貰った髪に手を当てて嘆いている。


そして、そんな空良君の横で腰に手を当てて軽く俯いている人こそ、私の想い人で間違いないはず。


「滝口君、空良君の保護者みたい…!」


蝉の声を運ぶ風に、滝口君の金の髪が揺れるのが見えた。


「はしたないから止めろ。…聞こえてんだろおい」


笑いながら歩みを進めれば、1ヶ月前と何ら変わらない様子の滝口君の声がはっきりと聞こえてくる。