あなたの落とした願いごと

「ですよね」


デートだなんて少々先走っているけれど、それでも嬉しいものは嬉しいな。


どうしよう、と、改めて浴衣の色と睨めっこをしているうち。


「…あ」


私の頭の中で、豆電球の光が灯ったのを感じた。


「分かった。決まったかも」


それは、今までの私なら絶対に選ばなかったであろう挑戦色で、でも、綺麗に着こなせている自分が想像出来たんだ。


「すみません。この浴衣にしたいんですけど」


滝口君は、私がこの浴衣に込めた想いに気づいてくれるかな。


私は、心の中で淡い期待を寄せながら、

お店の人に、桃色でも赤色でも藍色でもない、新たな色の浴衣を提示した。



「いやー、まさか沙羅がその色選ぶなんて!普通に可愛いしナンパされそう、くれぐれも迷子にならないでね」


「止めてよ、フラグ立てないで」


それから数時間が経ち、日が西に傾き始めた頃。


私達は自分で選んだ浴衣を着て、滝口神社に向かって歩いていた。


滝口君が教えてくれたとおり、普段は人気の少ない通りはお祭り目当ての人で賑わっていて。


下駄の奏でるカランコロンという音が、何とも新鮮で耳に心地良い。


「空良達も浴衣で来るって言ってたし、楽しみだね!」


エナもかなりこの日を心待ちにしていたのか、その声は弾んでいる。


「沙羅が来るって言ってくれて本当に良かったよ」