あなたの落とした願いごと

彼女が、いつになく真面目な声を出した。


「どうしたの」


既に着替え終えた私は、制服を雑にリュックに詰め込みながら尋ねる。


彼女がこんな真剣な声を出す事は滅多にないから、それが逆に面白くて。





「沙羅って、神葉君のこと好きでしょ」





「…え、?」



前言撤回。

こんなの、冗談でも笑えない。



「ごめん、何て?」


駄目だ、駄目駄目駄目。


エナの質問は私の心臓をまっすぐに射貫いて、持っていたワイシャツがぽとりと床に滑り落ちた。


エナの質問に否定してって、私の心が声の限りに叫んでいる。


この気持ちは、誰にも気づかれてはいけなかったのに。


自分で勝手に始めたこの恋は、誰にも知られる事なく消化される事を願っていた。


何で、彼女は感づいてしまったの。



「だーかーら、神葉君の事好きでしょ」



どうして。

何で分かるの。


声にならないその問いは、自分の吐息に掻き消される。



「…沙羅の顔見てたら、何となくそうなのかなって」



ああ、そうだよね。


私の表情が変わったのか、エナの声が少しばかり沈んだのが分かった。


私には何があっても見えないそれを、彼女は簡単に読み取ってしまえるんだもんね。


表情は、人の感情の映し鏡。


普通(・・)の人ならまだしも、私は、自分の表情管理すら上手く出来ないんだ。