あなたの落とした願いごと

でも、彼女達の髪色は黒か茶系で、エナの艶のあるブルーブラックではなかった。



「まあ、そうだよね」


自分の着替えが遅かったせいでいつの間にか彼女達が出て行ってしまった後、私は誰にともなく呟いた。


何故なら今日は、エナの席を含む横の列が教室掃除を言い渡されていたから。


それに、空良君と一緒にぎゃあぎゃあ不満を垂らしていた彼女が最終的に嫌々ながらに箒を手にしたのを見届けた後、私は此処にやって来たのだ。


だから、彼女が来るとしたら私が更衣室を出た後だろう…


「あれ、沙羅?何してたの、まだ上半身しか着替えてないじゃーん」


「あ、エナ」


噂をすれば影がさすとは、まさにこの事。


入り口の方に目を向けると、たった今私の脳内を埋め尽くしていた張本人がドアの隙間から顔を覗かせていた。


「さすがに遅くない?何してたの」


「エナに言われたくない!」


ガラガラと大きな音を立ててドアを閉めた彼女は、ずんずんと私の方に近づいてきて重そうなリュックを床に置いた。


「点呼間に合う?」


「あと10分あるから平気」


そんな他愛のない会話も、彼女と一緒なら花が咲いたかのように明るいものになる。


エナの右手の人差し指についた指輪が、光に反射して煌めいていた。



「ねえねえ」


それから、私達にしか通用しないようなくだらない話でひとしきり笑い終えた後。