あなたの落とした願いごと

若干上から目線のその言葉からは、夏祭りに8年訪れていなかろうが、その盛況ぶりを直で見ていたからこその重みが伝わってきた。


「滝口君が居るなら、迷わないだろうと思ったから、…」


しばしの沈黙の後、私は小さな声でそう告げた。



人混みが苦手なのにあえてその場所に行こうとするなんて、きっと滝口君からみた私は滑稽に映っているだろう。


それに、この台詞はまるで、遠回しに“来て欲しい”と言っているようなものではないか。


滝口君は福田さんからの誘いも断っているし、来るわけがないのに。


ごめん、と謝りながら彼の方を見ると、


「…」


滝口君は、何も言わずに口を真一文字に結んだまま私の方を見ていた。


(えっ、)


彼は怒っているのか呆れているのか、それとも…。



「やっぱ俺も行くわ。夏祭り」


どぎまぎしていた心は、彼の決意した様な一言で鮮やかに彩られた。


「えっ?いや、福田さんを断ったのに無理して来なくても」


「あいつはどうでもいい。俺は、お前が迷子になってこの間みたくなる方が余っ程困んの」


私が言わせてしまったみたいな空気になってしまったから慌てて首を振ったのに、滝口君からのド直球の正論が顔面を直撃した。


「そうです、よね、…はい、」


南山大江戸町で私がどんな様子だったのか、全てを知る人は滝口君のみ。