あなたの落とした願いごと

空良君が自分のパンを食べているのを一瞥した滝口君は、その苛立ちを隠す事なく親友にぶつけて椅子にどかりと座り込む。


「お疲れ、」


空気を読んだエナが小さな声でそう言ったのに対し、滝口君は舌打ちで返した。


夏祭りやら何やらの話で盛り上がっていたのに、ご立腹の滝口君の登場でーその原因を作った空良君のお陰でー、場の雰囲気が一気に悪くなったのが分かる。


空良君、あんなに大容量のコンビニ弁当食べてたのに、どうして滝口君のパンにまで手を出したかな。


ごめん今日ラーメン奢るよ、なんて、彼は自分勝手な約束を勝手に取り付けている。


彼は今、自分が過去最高に空回りをしている事に気が付いていないらしい。


小さく息を吐いた私は、


「あの、チョコあるけど食べる?」


せめてもの慰めになればと、リュックを漁って個包装になっているビターチョコレートを数個取り出した。


これは部活終わりに食べようと思っていたものだけれど、滝口君の腹の足しになるのならチョコも喜ぶはず。


手の平に乗せて視界に入るように腕を伸ばせば、それに比例するように彼の顔がこちらを向く。


一瞬だけ見えたその目は狼か何かのように鋭くて、空腹の人を怒らせるとこうなるんだ、と、尻込みしそうになったけれど。


「…食う」