あなたの落とした願いごと

結局、自分はなんて単純なんだろう、と呆れてしまうけれど、

滝口君も居るなら、どんなに怖くても着いて行きたいと思ってしまう。


やっぱり私、傲慢かな。



「良かった、そうこなくちゃ!浴衣着ようよ浴衣!」


私が同意の意を示した事により、エナは両手を突き上げて喜びを全身で表現する。


いくら私の事を良く知っている彼女でも、私が人混みが苦手になった理由までは把握していない。


そんな彼女が無邪気にはしゃぐ姿と、


「詩愛が浴衣着たら、俺鼻血出してぶっ倒れるかも…」


なんて台詞をさらりと唇にのせる空良君を見て、

後付けかもしれないけれど、自分のこの決断は彼らを喜ばせる為にも正しかったのかもしれない、とも思えた。



「お前、俺の昼食うなってあれ程言っただろうが」


それからしばらく、人の目を気にせず盛り上がっている2人を眺めていると、何処からか滝口君の怒りを抑えた静かな声が聞こえてきた。


「あっ、おかえり」


右隣を見ると、私の言葉を完全に無視した滝口君は、自分の前の席に座る男子の方に顔を向けていて。


釣られてそちらを向くと、


「ありゃ?おかしいね、手が勝手に動いてたみたい?」


あろう事か、滝口君の残りの塩パンを悪びれもせずに咀嚼している空良君が居た。


「…ふざけんなよお前、こっちは長時間あいつに引き止められて腹減ってんだけど」