あなたの落とした願いごと

私はあの頃とは違うんだし、やっぱり皆と楽しみたいな。


なのに。


私も行きたい、と口を開こうとしたら、社会科見学で自らが晒した醜態が脳内で再生されて、喉に蓋が付けられたような感覚に陥った。



…そうだよ。


結局私は、あの頃のトラウマを拭い去る事は出来ていない。


今滝口神社に行っているのは人気が少ない時間帯だし、休日や午後等、人数が少しでも増え始めただけでもお参りを断念しているのに。


夏祭りなんてあの日以来訪れていないし、

果たして、こんな気持ちで参加して、私は心から貴重な時間を楽しむ事が出来るのかな。



「沙羅ちゃん?おーい、聞こえてますかー?」


完全に固まった私の顔の前で、空良君がゆらゆらと手を振っている。


聞こえてるよ、と微笑んだけれど、自分が上手く笑えているかも、空良君がどんな表情でその行為をしたのかも、何も掴み取れない。



でもやっぱり、滝口君が行くのなら私も行きたいな。


(…よく考えてみたら、滝口君はあの神社について誰よりも詳しいもんね、)


そういえば、と、私は頭を巡らせる。


滝口君について行動していれば、トラウマを思い出す事はない、かもしれない。


「私も、行きたい」


震えたままの声に乗せる、確かな覚悟。


それが、長い長い格闘の末に出した結論だった。