砂浜に描いたうたかたの夢

過去の絵を振り返って、ふと気づいた。

会うのは3回目なのに、下半分に記しただけで絵は描いていない。

意図を読み取った彼がゆっくりと顔を向ける。



「お願い! ざっくりでいいからスケッチさせて!」



ノートを持ったまま手を合わせた。

本当は写真を撮りたいけど、彼の……推しの嫌がることはしたくないから。

だからせめて、似顔絵だけでも……。



「いいよ」

「えっ」



必死に懇願する私とは対照的なあっさりした返事が来て、思わず拍子抜けした。



「いいの?」

「うん。その代わり、2割増しでかっこよく描いてね」

「ありがとう!」



リュックサックからペンケースを出し、ノートの余白に鉛筆を走らせた。

ふふっ、描くのは上半身だけなのに、お行儀よく足を揃えてる。



「何笑ってんの」

「足揃えてるの、なんか可愛いなぁって」

「可愛い⁉ かっこよく描いてって言ったよね⁉」

「描いてる! 描いてるからじっとして!」