……だよね。ただでさえ、クラゲに刺されたという痛い思い出があるんだもん。

それよりも遥かに辛くて苦しい思い出が詰まっている海に……。


既に死んでるから、溺れることも刺されることもないって、頭では分かっていても、恐怖を感じないわけがないよね。



「だけど、目の前でまた同じ悲劇が起こるのかと思ったら、居ても立ってもいられなくて。……助けられないと分かっていても、体が動いてた」



沈黙の後に発せられた言葉にドキッとして目を向けると、右頬に指先がそっと触れていて。



「……けどまさか、俺の声が聞えてたなんてね」



触れているのか分からないくらいの、かすかな感覚。高台で慰めてもらった時に感じたものと同じだった。



「めちゃめちゃ怖かったけど、俺のこと見えるの⁉ ってビックリして、一瞬にして恐怖が飛んでいったよ」

「今まで誰にも気づいてもらえなかったの?」

「うん。道路に寝そべっても、飛び出しても、みんな無視。一花ちゃんに会うまで毎日轢かれてたよ」