「岸まで運んだんだけど、ぐったりしてたから家に連れて帰ったんだ」

「そう、なんだ。助けてくれてありがとう」

「いえいえ。あ、帽子あるから持ってくるね」



そう言って立ち上がり、凪くんは障子を開けて部屋に入っていった。両手のひらで頬をそっと包み込む。


溺れて、沈んで、走馬灯を見て。

私の人生もう終わりなのかなって死を覚悟してたけど……無事だったんだ。生きて帰ってこれたんだ。



「ただいま。はいどうぞ」

「ありがとう」



戻ってきた彼から帽子を受け取った。

良かった。花飾りも無事だったみたい。

海水を含んで少し柔らかくなった帽子をギュッと抱きしめる。



「本当驚いたよ。こっち見て返事してたのに、次の瞬間溺れてるんだもん。クラゲか何かに刺されてひるんだ?」

「ううん。足がつっちゃって動けなかっただけ。それに、足場もなかったから……」



回想しながら帽子を抱きしめる力を強めた。


いつ波が来るか予測できない恐怖。
のどと肺が水に埋め尽くされていく感覚。

何度足掻いても、状況は良くなるどころか、体力が失われていくだけ。

生きたいという希望が一瞬にして消え去り、絶望に塗り替えられた。