「っ……はっ」



息ができないっ、苦しいっ、助けてっ。

一瞬にして頭が真っ白になった私は、もがいて酸素を体内に取り込む。



「一花っ‼」



すると、上下に揺れる視界の端で、凪くんが防波堤から海に飛び込むのが見えた。

綺麗なフォームで入水し、クロールで泳いでくる。


凪くん、ダメ。またクラゲに刺されちゃう。また苦しい思いしちゃうよ。


来ちゃダメだと心では言いながらも、腕と左足を必死に動かして耐える。


しかし、負担をかけすぎたのか、最悪なことに左足までつってしまった。

その瞬間、再び背後から波が襲い、今度はのどの奥に水が流れ込んだ。

足裏に感じた時の何倍もの強烈な痛みが、のど全体に広がる。

その感覚が胸に移動すると、視界がぼやけ、青一色の世界に落ちた。


お母さん、毎日騒いでごめんなさい。

おじいちゃん、おばあちゃん、伯母さん、智、最後まで迷惑かけてごめんなさい。

楓も、お土産買ったのに持って帰れなくてごめん。

そして、お父さんも──。


走馬灯を見終えてまぶたを閉じると、冷たくなった体が何かに包まれた。


音が遮断された真っ暗な世界の中。

誰かが私を引っ張っている……?



「一花っ! しっかりしろ!」



顔に蒸し暑い空気が触れた。

だけど、もう意識が薄れていて確認する気力も残っておらず。

最後に唇に温もりを感じて意識を手放した。