諭してきた彼に反抗するようにそっぽを向くと、突風が吹いた。



「ああっ! 帽子が!」



風に乗って飛んだ帽子は海の上へ。

そんな、あの帽子お気に入りなのに……!



「取ってくる!」

「ええっ⁉ ちょっと待っ……」



制止する凪くんを無視して浅瀬に入り、平泳ぎで帽子を取りに向かう。

あれは凪くんが褒めてくれた花飾りが付いている特別な帽子。手放したくない。


波を横切りながら泳ぎ、帽子の元にたどり着いた。



「一花ちゃーん! 大丈夫ー⁉」

「うん!」



掴んだ帽子を高く上げ、保護したことを知らせる。

手を振る凪くんの近くには、昨日見た赤い灯台が。


わわっ、夢中になってたらこんなところまで来てたなんて。早く戻らなきゃ。


腕と足を使って方向転換。

しかし、ここで、あるはずのものがないことに気づく。


……足場が、ない。


その時、右足の裏に張り裂けそうな痛みが走った。

嘘、つった……⁉



「凪く……っ」



右足を動かせないと判断し、咄嗟に名前を呼ぶも。背後から来た波に呑まれ、口の中に水が入った。