どうやら以前、ファンの人に声をかけられたことがあったらしく。話し声が大きいと目立ってしまうため、なるべくボリュームを抑えてほしいんだと。

振り返ってみれば、今まで凪くんと会ったのも、全部人気のない場所だったっけ。



「無理言ってごめんね」

「ううん。大丈夫。気をつけるね」



年月は経っているとはいえ、警戒するのも当然。

だって凪くんは、SNSで一切顔出しをしていない。

つまり、投稿写真から情報を特定したということ。恐怖を覚えるに決まってる。

今みたいなお喋りができないのは少し残念だけど……会えるだけでもありがたいんだから。感謝しなきゃ。



「あっ、じゃあ連絡先交換していい? 何かあった時のためにさ」

「あー……」



スマホを取り出すと、気まずそうに視線を逸らされた。


引きつった口角、泳ぐ目、開いたまま動かない口。
その先の言葉を待たなくても分かる、交換したくないんだと。

ファン絡みでトラウマがあるから、乗り気じゃないのは分かる。だけど、そんなあからさまな反応されたら悲しいよ。

そもそも、提案したの凪くんなのに……。