砂浜に描いたうたかたの夢

手を出せとジェスチャーされたので、右手を差し出す。



「はいどうぞ」

「ありが……ぎゃあああ!」



置かれた物を見た瞬間、即行で手を振り払った。



「あ、ごめん、間違えちゃった。こっちを渡そうと思ってたんだった」

「いらないよ!」



ジョニーの毛を渡そうとする手をパシッと引っ叩く。

私の馬鹿っ。口調の時点で怪しいと気づけよ……っ。



「おー、懐かしい。俺も昔は見つけては集めてたなぁ。どこにあったの?」

「駐車場です。今朝散歩する前に、ちょうど脱皮してる現場に遭遇したんですよ。帰ってきたら脱ぎ終わってたので取っちゃいました」

「へぇ〜! じゃあ近くに地上デビューしたやつがいるかもな!」



床に落ちたセミの抜け殻を拾って眺める父に詳しく説明する智。


セミ本体の次は脱ぎたてほやほやの殻を渡してくるなんて……! とぼけてたけど、本当は覚えてるんじゃないの⁉

この性悪男め! もう1回彼女と喧嘩してボコボコに負かされろっっ!