「ごめんね、チビ達が邪魔しちゃって。ほらアンタたち、さっさと帰るよ」
「ええー、でもー」
「『でも』じゃない! いいから言う事を聞きなさい。前も危ない目にあったんでしょ」

怒られて、しょんぼりする明美ちゃん。
可哀想だけど、椎名さんの言う通りです。

「気持ちはわかりますけど、本当に危ないんです。もういつサトルくんから最後の電話が掛かってくるか、分からないのですから———」

リリリリリッ! リリリリリッ!

その時、突如スマホの着信音が鳴り響く。

——っ! もう掛かってきましたか。
まだ椎名さん達がいるっていうのに。

「知世、その電話もしかして、サトルくんから?」
「たぶん、そうだと思います。ど、どうしましょう?」 

今出たら椎名さん達を巻き込んでしまいますから、いったんスルーするべき? 
でも出ないと、儀式は失敗しますし。いったいどうすれば……。

「全員社に背を向けて、横一列に並ぶんだ! 俺かトモが良しと言うまで、絶対に後ろを振り返らないで!」

迷っている所に葉月君の号令が飛びます。
この状況じゃ仕方がありませんね。椎名さん達は瞬時に動いて、私達は一列になりました。

「ああ、もう。結局逃げ遅れちゃったじゃないの。アンタたち、後で覚悟しときなさいよ!」
「「ひぃ~!」」

過ぎた事を言っても仕方がありません。
ゴクリと息を飲みながら、スマホをタッチすると。

「……ぼくサトルくん。今、君たちの後ろにいるよ」

声が聞こえてきたのは、スマホからだけではありません。
私達の背後から、全く同じ声が響いてきたのです。

だけどその声を聞いたとたん、まるで喉元に刃物を突き付けられたようなゾクリとした恐怖と、重くのしかかるような圧が、全身を襲いました。
な、何ですかこれは⁉

まるで全身を氷の針が刺しているみたい。冷たくて苦しくて、気持ちが悪いです。

「トモ、これはかなり……」
「はい。思っていた以上の、大物みたいですね」

背後に感じるのは、今まで戦ってきたどの霊よりも禍々しい、大きな力。
これがサトルくんなのですか?

相手は都市伝説の怪物。侮っていないつもりでしたけど、これは想像していたよりもはるかに強力な相手のようです。

「ぼくサトルくん。君たち、ぼくに何か聞きたいことがあるんだよね。何かなー?」

発せられる圧とは裏腹に、楽しげな口調で話しかけてくるサトルくん。
けどその声に、どこか違和感を覚えました。

さっき電話で話していた時は気がつきませんでしたけど、これって女の子の声? 

サトルくんって言うからてっきり男の子だと思っていましたけど、女の子だったのでしょうか?

「あっ……ああーっ!」

疑問に思っていると、明美ちゃんが驚いたような声をあげました。

「この声、いなくなった真由子ちゃんの声だよ」
「本当だ。サトルくんを呼んだのに、どうして⁉」

明美ちゃんだけでなく、宗太くんも声をあげますけど、何が何だかわかりません。