「止まりなさい! 暴れないで、大人しく眠りに……きゃっ!?」

大の字になって進路を塞ぎましたが、それで止まる人体模型じゃありませんでした。速度を落とすことなく体当たりをしてきて。
さらに仰向けに倒れた私の上に、のしかかってきた。

「こ、こら。暴れちゃダメですって!」
「ギィィィィィィヤァァァァァァッ!」

人体模型は不気味な叫び声をあげながら私を押さえつけて、指が肩に食い込んでくる。

痛っ! 
実は私、霊力はあってもケンカが強いわけじゃなく、むしろ運動オンチで弱い方。
なのでこんな風に肉弾戦で攻められるのは苦手なんですよね。

けど普通のケンカとは違って、要は人体模型の中に宿る魂を攻撃すれば良いのです。
標的に手を向けて霊力を集中させて、後はこれを一気に解き放てば……。

「徐霊キィィィィック!」

霊力を放とうという直前。人体模型は蹴飛ばされて、弧を描くように飛んでいった。

「あんた、あたしの愛弟子に手を出すなんて、なめたまねしてくれるじゃない」

まるで特撮ヒーローのようなキックを放ったのは、悟里さんです。

『徐霊キック』なんて言っていますけど、ようは飛び蹴りです。
ただし金属バットでもへし折れるのではないかと噂されているくらいの、強力な飛び蹴りですけど。

「この人体模型、覚悟はできているでしょうねえ!」
「ぎゃ、きゃぅぅぅぅん」

頭に青筋を立て、ペキポキと指を鳴らしながら近づいていく悟里さん。
人体模型は腰を抜かしたように座り込んで、かわいそうにガクガク震えています。

あ、あの。私別にケガもしていませんし、あんまり怖がらせないであげてください。

「悟里さん落ち着いてください。これじゃあ人体模型がかわいそうです、さっさと祓ってしまいましょう。迷う者、荒ぶる魂、鎮まりたまえ……浄!」

二人の間に割って入ると、人体模型めがけて術を放ちます。
霊力を練って言霊を紡ぎながら光を放ち、魂を浄化させる鎮めの術です。

宿っていた魂はすぐに浄化され、人体模型はがしゃんと音を立てて崩れ落ちる。
さっきまで脈を打っていた臓器はただの作り物に戻り、どうやら無事に祓えたみたいです。

「おー、さすが手際が良い。また腕上げたんじゃないの?」
「そんなこと無いです。悟里さんだってやろうと思えば、あれくらいすぐに祓えましたよね」
「いやー、知世ちゃんが襲われたものだから、つい頭に血が上っちゃって。祓うより先に、足が出ちゃったよ」

う、それって私がドジをしたから、対応が遅れたってことですよね。
腕を上げたなんてとんでもない。もっともっと精進しないと。