「トモ、大丈夫⁉」

心配そうに私の顔を覗き込む葉月君。
どうやら彼にも、さっきの映像が見えていたようです。

とても気持ちが悪い。
気をしっかり持っておかないと、吐きそうになる。
だけどそんな気持ちを呑み込んで、わざと明るい声を出しながら立ち上がります。

「なに不安そうな顔してるんですか。もう祓いましたから、心配することはありませんよ」
「祓ってすむ問題じゃないだろ。あんなの見せられて、平気なはず無いもの」
「そんなことありません。あんなの、ちょっとした嫌がらせですもの」
「トモ……。そんな真っ青な顔して言っても、説得力無いよ」

真っ青? 
言われてはじめて、手がガクガクと震えていることに気がつきました。

祓ってみて、あのモヤの正体がわかりましたよ。あれは幽霊でも妖でもなくて、呪い。
怪我をしてしまえ、不幸になってしまえという悪意のこもった、念のカタマリです。

さっき流れ込んできた映像は、きっと呪いをかけた人達の記憶。
本気で呪えると思っていたのかは怪しく、面白半分、遊び半分と言った様子でした。

だけど呪いを信じていなかったとしても、彼女達は私のことを、心から嫌っているのでしょう。不幸になってしまえばいいって、思うくらいに。

「とにかく、早くここを出てどこかで休もう」
「そ、そうですね。呪いの件は、上に報告した方がいいかも。もしかしたら祓い屋業を妨害しようという人が、呪ってきたという可能性もありますから。あ、あれ、こういう時って事務所と悟里さん、どっちに言えばいいんでしたっけ? あれ?」

頭の中が真っ白になって、何をどうすればいいのか分からない。
するとそんな私の両肩を、葉月君ががっしりと掴みます。

「落ち着きなって。連絡は俺がやるから、トモは余計なことは考えないで、ね」

気遣うように優しく言う葉月君でしたけど、その声はどこか遠くに感じます。

呪いは大したことなくて、すぐに祓える弱いものでしたけど、私は呪われるくらいに人から嫌われている。
その事実が、痛いくらいに胸を締め付けるのでした。