放課後になって、チャイムが鳴ったと同時に教室を飛び出した私は、椎名さんのクラスに行って、全力で頭を下げました。
「お昼ご一緒できなくて本っっっっ当にごめんなさい!」
「いや、そんな謝らなくても、別に約束してたわけじゃないし。って、まずは頭上げて。みんな見てるから!」

とりあえず、場所を廊下へと移します。
彼女の言う通り約束はしていませんでしたけど、最近はお昼を一緒に食べるのが当たり前になっていました。

だけど今日はクラスの女子からの誘いを断りきれずに、行くことができなかったのです。

「気にしてはいないけど、連絡が取れた方がいいよね。スマホの番号教えてよ」
「はい、こちらになります」

考えてみたら、親戚やお仕事関係以外で番号登録なんて、これが初めてです。

「それにしても知世、急に人付き合いよくなってない?」
「葉月君のついでで、声をかけられるだけです。現に今日のお昼だって、皆口を開けば葉月君葉月君でしたし」
「そんな卑屈にならなくても。まあ、葉月くんはたしかにイケメンだし、うちのクラスでも良いなって言ってる子は多いけどね。うかうかしてたら取られちゃうかもよ」
「と、取られるって。私は別に葉月君が誰と仲良くしようと、ぜんっぜん構いませんから!」

葉月君が女の子相手にデレデレしようと、誰かと付き合おうと、私には関係無いことです。

あ、でももしそのせいで、祓い屋の仕事に影響が出るかも? 
やっぱり、少しは気にした方がいいのかも。あくまでお仕事のために、ですけど。 

「なになに、俺の話?」
「ひゃあっ⁉」

噂をすれば影。
いつの間に来たのか、ポンと頭に手をのっけてきたのは、葉月君でした。

「ふふふ。今知世と、葉月君が格好良いなーって話をしてたの」
「してません! 私は葉月君なんて全然、全く、これっぽっちも格好良くないって、心の底から思っています!」
「……トモ、俺泣いてもいいかな?」

ガックリと肩を落とす葉月君。
う、少し言い過ぎたかもしれません。

「まあいいけどさ。それはそうと、これからヒマ? 少し付き合ってくれないかな」

今からですか? 
するとそれを聞いた椎名さんが、何故か目を輝かせます。

「え、ひょっとしてデートの誘い?」
「へ? デ、デデデ、デート!? そ、そそそそんなわけないじゃないですか!」
「だったら良かったんだけどね。松木さん達のグループから、遊びに行かないかって誘われたんだ。トモも一緒にって」

ああ、そう言うことですか。
松木さんというのは目立つタイプの、クラスの中心にいる女の子。だけど私は今まで、彼女と話したことがないのですよね。

なのにそんな私を、どうして誘ったりしたのか。答えは簡単。

「私は葉月君の、オマケってことですよね。別に邪魔者なんて呼ばずに、自分達だけで行ったらいいじゃないですか」
「なにもそんな言い方しなくても。確かに松木さんは、トモをついでで誘ったんだろうとは思うけどさ」

そこは嘘でもいいから、否定してほしかったです。

「でも理由は何であれ、トモにとっても良い機会じゃないの? クラスに友達いないのは、さすがにどうかと思うよ」

う、痛いところをついてきます。
ええ、そうですよ。学校で話す相手は、椎名さんくらいです。
するとその椎名さんが。

「あたしも賛成。せっかくなんだし、行ってきたら。誘った理由はともかく、案外楽しいかもよ。ああ、娘を送り出す親って、こういう気持ちなのかな?」
「椎名さんはいつから、私のお母さんになったんですか?」

けど一理あります。このコミュ症はどうにかしなきゃって、悟里さんにも言われましたし。

「では、よろしくお願いします」
「了解。後で松木さん達に伝えておくね」

返事をしたはいいですけど、そういえば何をして遊ぶのでしょう?
今まで放課後は祓い屋として活動するか、家で勉強するかでしたから、まるで想像がつかなくて。不安が半分、わくわくが半分です。