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関東地方の某県某所、町の一角にあるビル。ここは知る人ぞ知る、祓い屋協会の事務所です。

祓い屋。
それは幽霊や妖といった様々な怪異に立ち向かい祓っていく霊能者であり、そんな人たちを管理しているのが、祓い屋協会。

そして私、水原知世も、そんな祓い屋協会に所属している祓い屋の一人。
普段は学校に通いながら裏では霊を祓うお仕事をしている、12歳の中学生です。

今日は書類を提出すべく事務所を訪れていたのですが。
待合室でソファーに腰掛けていると、近づいてくる人影があります。

「やあ知世ちゃん久しぶり。調子はどう」
「あ、悟里(さとり)さん」
顔を上げると、そこにいたのはレディーススーツに身を包んだ、ウェーブのかかった髪の女性。祓い屋の先輩である、火村(ひむら)悟里(さとり)さんです。

「学校もあるのに、いつも無理させちゃって悪いね。ちゃんと休めてる?」
「人手不足ですから、仕方がないですよ。けどお仕事の方はちゃんとやっていますから」
「その辺の報告は聞いてるよ。活躍してるようで何より。あたしも師匠として鼻が高いよ」

笑いながら、ツインテールの頭をくしゃくしゃと撫でくる悟里さん。
そう、彼女は先輩であると同時に、私のお師匠様でもあるのです。

今では私も一人で仕事をこなせるようになりましたけど、昔はよく鍛えられていました。

「で、学校の方は? 知世ちゃんのことだから、祓い屋業に専念しすぎて、成績が下がったなんてことはないと思うけど」
「何とかついていけていますよ。ノートが取れないのが、ちょっと困りますけど」
「それなら友達に見せてもらえば……って、まさかまだ友達を作れてないなんてことは?」
「あ、あははは。ソンナコトナイデスヨー」

笑って誤魔化したけど、本当は悟里さんの言う通り、ノートを見せてもらえるような友達なんていないんですよね。
あと一ヶ月もすれば、二学期も終わるというのに。

友達を作るのは苦手で、幽霊を祓うのよりもよほど難しいミッションですよ。

「そのコミュ症だけは何とかしないとね。ああ、残念。あたしがもう2、3歳若かったら、一緒に青春を送ってたのに」

頭を抑えながら大袈裟に悩むポーズを取っていますけど、悟里さんってアラサーですよね。
2、3歳じゃ、どの道無理なのでは……。

「ちょっとーっ!誰でもいいからそいつを捕まえてくれー!」

疑問に思っていた時、不意に聞こえてきたのは女性の声。
見れば奥の部屋から事務員の前園さんが血相を変えて飛び出してきていて。さらにその前方にはなんと、逃げるようにこっちに走ってくる、人体模型がいたのです。

「おーい、これはいったい何の騒ぎだー?」
「火村さんに水原さん。徐霊を頼まれていた人体模型が逃げ出したんですよ。外に出る前に、何としても捕まえないと!」

なるほど、事情は分かりました。
走ってくる人体模型のむき出しになっている臓器は作り物のはずなのに、まるで本物のように鼓動を刻んでいる。

あんなものが町に出たら、パニックになってしまいますね。だったら。