それに実は、葉月君が今住んでいるのって私と同じアパートなんですよね。
昨日の夕方、引っ越しそばを持って訪ねてきて、「今日から俺もここに住むから、ご近所付き合いよろしく」なんて言うんですもの。

できればその時に、転校のことも教えてもらいたかったです。

「へー、葉月君も祓い屋なんだ。じゃあさ、知世のこと、色々知ってるの?」
「まあね。好物は明太子で、チーズが苦手。小学生の頃に貰ったウナギのぬいぐるみに『カバヤキ』って名前をつけて、今も大事に取ってある事とか……」
「キャーッ! 人のプライベートを暴露しないでください! だいたいカバヤキを今も持ってる事まで、どうして知ってるんですか⁉」

数年会っていなかったから、知らないはずなのに。
けど、久しぶりに会ってよーく分かりました。葉月君と話をするとペースが乱れるというか、凄く疲れます。

しかし彼はよそに行く気はないみたいでちゃっかり居座ってきて。
途中、椎名さんがお手洗いに行くと言って席を外すと、彼と二人きりになります。

「そういえば、向こうではしっかりやっていたんですか? 四国の祓い屋協会は、ずいぶん人手不足だったみたいですけど」
「まあまあかな。一時期、仕事できない時もあったけど」
「仕事できないって、何かあったんですか?」
「え、えーと……」

尋ねた途端、気まずそうに目をそらす葉月君。これは怪しいです。

「実はその、学校の成績が悪くて。勉強に集中しようってことになったんだ。仕事の無い日は勉強せずに、遊んでばかりいたのが不味かったかな」
「はぁっ!? 何をやってるんですか! まさか、腕まで落ちていないですよね?」
「それは大丈夫……たぶん」

たぶんって、何だか心配になります。弱くなったら、こっちが困るというのに。

だって彼はずっと、私が超えるべき目標だったのですから。
もしも弱くなっていたら本気で怒りま…………。

ピコン!

一言言ってやろうとしたタイミングで、スマホに連絡が入る。

見ると新しい、仕事の連絡。
すると葉月君も同じように、自分のスマホを確認します。

「トモにも連絡来た? 今夜一緒に、K町の外れまで行けってさ」

さっきまでの緩い表情から一転。急に目つきが鋭くなる葉月君。
どうやらお仕事のこととなると、ちゃんと真面目になるみたいです。

「了解です。それはそうと、これから本当に、葉月君と組んで仕事をするんですね」
「なに、不満?」
「そういうをけじゃないですけど……」

不満はありません。
けど、ちょっと複雑なんですよね。

この前霊を祓いに行ったら、依頼主である大場さんに襲われたあの事件。その後私は正式に、葉月君と組んで仕事をすることが決まったのです。
女の子一人だと、やっぱり色々と心配だと言われて。

確かに誰かと組んで行動した方が、安心はできます。ただ。

「自分の身も守れなかったことが、情けないです」
「ひょっとして、この前のこと気にしてるの? 大丈夫だって、失敗した分は次で取り返せばいいんだから。今夜は期待してるよ」

元気付けるように、バンバンと背中を叩いてくる葉月君。
ええ、期待に応えてみせますとも。 

これ以上格好悪い姿は、見せられませんから。