「それじゃあ、今日の修行はここまで。後は遊ぶなり休むなり、好きにするといいよ。あたしはこれから用事があるけど、夜までには帰るから。知世ちゃんも、暗くならないうちに家に帰っててね」
「はい……」
返事はしたものの、ちゃんと目を合わせられない。
さんざんな出来だったのに、悟里さんはどうして怒らないんだろう?
もしかして怒ってもムダだって、見捨てられちゃった?
だけどそれを聞く勇気もなくて。悟里さんはぬいぐるみの入った段ボールを抱えて行って、修行場にはわたしと風音くんが残された。
「どうする? よかったら一緒に、佐藤のばあちゃんの家に遊び行かね? あそこ最近、子猫生まれたんだって」
風音くんはそう言って誘ってきたけど、わたしは首を横にふった。
「わたしは残って自主練するよ」
「え、今訓練終わったばかりなのに?」
その訓練で上手くできなかったから、練習するの。
指先に意識を集中させて、滅!
的となるぬいぐるみはないけど、空に向かってこれを繰り返す。
「頑張るねえ。まあ、あんまり無理はしないでね」
風音くんは離れた所に腰を下ろして、持ってきてたリュックの中からゲーム機を取り出す。
ここで遊ぶつもりなのかな? まあいいけど。
それよりもわたしは、修行に集中しないと。
「滅! 滅! 滅!」
「えい、やあ……よーし、上手くいった。新しいモンスター、ゲット」
「滅! 滅! 滅!」
「ん、あそこにいるのは野生のキツネじゃないか。モフモフしてて可愛い。おいでおいでー」
「滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅!」
「トモー、おやつにジュースとチョコレート持ってきてるから、後で食べよー」
……ああ、もう。うるさくて全然集中できない!
風音くん、遊ぶのはいいけど、邪魔しないでくれないかなあ。
どうしよう、集中できないし疲れてるし。今日はもう止めたおいた方がいい?
いや、なまけてないでとにかく練習しないと、強くはなれないんだから。
気合いを入れ直して、もう一度……。
「あのさトモ。その練習だけど、闇雲に数こなしても効率悪いよ」
滅……って、ええっ⁉
「効率悪いって、どうして?」
「この術には、相手を攻撃するって意思を込めなきゃいけないからね。だけどトモ、さっきからちゃんと、攻撃するイメージできてる?」
できてなかったかも。
ただ手を振ることと、声を出すことだけに気を張ってた。
遊んでいるだけだと思っていた風音くんだったけど、わたしのことをしっかり見てたんだ。
「慣れてくると別だけどさ。俺の場合、手からビームを撃つイメージでやってるよ。こんな風にね。滅!」
風音くんが手を振るった瞬間、辺りの空気が震えた。
手から放たれた光が空に飛んで行って。見えない力がこっちにまで、ビシビシ伝わってきた。
それはわたしがさっきまで放っていた、ヒョロヒョロとした術とはまるで違う。
一回。たった一回で、実力の差を思い知らされてしまった。
「ほら、こんな感じ。別に焦ることないんじゃないの、ゆっくりやっていけば」
「でも……」
「大丈夫。もしまたさっきみたいに怖い目にあっても、俺が守ってやるから」
「———っ!」
さらっと言った風音君だったけど。まるでするどい刃で刺されたような痛みが、胸に走った。
今、守ってやるって言ったの?
それって……。
「そ、それはわたしが、守られなきゃいけないくらい弱いこと?」
「えっ? いや、そういう意味じゃなくて……って、なに泣いてるの⁉」
言われて初めて、涙が頬を伝っていることに気がついた。
泣きたくなんてないのに。
こんな情けない姿、見られたくない。だけど涙は止めどなく溢れてきて、たまらなくなったわたしは、風音君に背を向けて走り出した。
「ちょっとトモ⁉ 待ってよ!」
後ろから引き留める声が聞こえてきたけど、わたしは止まらない。
何もできないのがいやで祓い屋になるって決めたのに、どうして弱いままなの?
強くなりたいのに、守られてばかりなのが情けなくて。惨めな気持ちに押しつぶされそうになりながら、わたしは全力で、その場から逃げた。
「はい……」
返事はしたものの、ちゃんと目を合わせられない。
さんざんな出来だったのに、悟里さんはどうして怒らないんだろう?
もしかして怒ってもムダだって、見捨てられちゃった?
だけどそれを聞く勇気もなくて。悟里さんはぬいぐるみの入った段ボールを抱えて行って、修行場にはわたしと風音くんが残された。
「どうする? よかったら一緒に、佐藤のばあちゃんの家に遊び行かね? あそこ最近、子猫生まれたんだって」
風音くんはそう言って誘ってきたけど、わたしは首を横にふった。
「わたしは残って自主練するよ」
「え、今訓練終わったばかりなのに?」
その訓練で上手くできなかったから、練習するの。
指先に意識を集中させて、滅!
的となるぬいぐるみはないけど、空に向かってこれを繰り返す。
「頑張るねえ。まあ、あんまり無理はしないでね」
風音くんは離れた所に腰を下ろして、持ってきてたリュックの中からゲーム機を取り出す。
ここで遊ぶつもりなのかな? まあいいけど。
それよりもわたしは、修行に集中しないと。
「滅! 滅! 滅!」
「えい、やあ……よーし、上手くいった。新しいモンスター、ゲット」
「滅! 滅! 滅!」
「ん、あそこにいるのは野生のキツネじゃないか。モフモフしてて可愛い。おいでおいでー」
「滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅!」
「トモー、おやつにジュースとチョコレート持ってきてるから、後で食べよー」
……ああ、もう。うるさくて全然集中できない!
風音くん、遊ぶのはいいけど、邪魔しないでくれないかなあ。
どうしよう、集中できないし疲れてるし。今日はもう止めたおいた方がいい?
いや、なまけてないでとにかく練習しないと、強くはなれないんだから。
気合いを入れ直して、もう一度……。
「あのさトモ。その練習だけど、闇雲に数こなしても効率悪いよ」
滅……って、ええっ⁉
「効率悪いって、どうして?」
「この術には、相手を攻撃するって意思を込めなきゃいけないからね。だけどトモ、さっきからちゃんと、攻撃するイメージできてる?」
できてなかったかも。
ただ手を振ることと、声を出すことだけに気を張ってた。
遊んでいるだけだと思っていた風音くんだったけど、わたしのことをしっかり見てたんだ。
「慣れてくると別だけどさ。俺の場合、手からビームを撃つイメージでやってるよ。こんな風にね。滅!」
風音くんが手を振るった瞬間、辺りの空気が震えた。
手から放たれた光が空に飛んで行って。見えない力がこっちにまで、ビシビシ伝わってきた。
それはわたしがさっきまで放っていた、ヒョロヒョロとした術とはまるで違う。
一回。たった一回で、実力の差を思い知らされてしまった。
「ほら、こんな感じ。別に焦ることないんじゃないの、ゆっくりやっていけば」
「でも……」
「大丈夫。もしまたさっきみたいに怖い目にあっても、俺が守ってやるから」
「———っ!」
さらっと言った風音君だったけど。まるでするどい刃で刺されたような痛みが、胸に走った。
今、守ってやるって言ったの?
それって……。
「そ、それはわたしが、守られなきゃいけないくらい弱いこと?」
「えっ? いや、そういう意味じゃなくて……って、なに泣いてるの⁉」
言われて初めて、涙が頬を伝っていることに気がついた。
泣きたくなんてないのに。
こんな情けない姿、見られたくない。だけど涙は止めどなく溢れてきて、たまらなくなったわたしは、風音君に背を向けて走り出した。
「ちょっとトモ⁉ 待ってよ!」
後ろから引き留める声が聞こえてきたけど、わたしは止まらない。
何もできないのがいやで祓い屋になるって決めたのに、どうして弱いままなの?
強くなりたいのに、守られてばかりなのが情けなくて。惨めな気持ちに押しつぶされそうになりながら、わたしは全力で、その場から逃げた。