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木々の間を駆け抜けながら、わたしは迫り来るぬいぐるみ達の攻撃を次々とかわしていく。

……ごめんなさい、ウソをつきました。

本当はぬいぐるみに背を向けて、ワタワタと慌てながら逃げているんです。

「きゃー! こ、来ないでー!」

振り返るとくまちゃんがノシノシと歩きながら。
ウサギさんがぴょんぴょん跳びはねながら、こっちに迫ってきている。

追いつかれると、体当たりされちゃう。柔らかいぬいぐるみだけど、勢いよくぶつかられるとやっぱり痛いよ。
に、逃げなくちゃー!

「ほらほら知世ちゃん、逃げてばっかりじゃやられちゃうよー。反撃反撃ー!」

悟里さんはパンパンと手を叩きながら笑っている。
そ、そんなこと言われても。と、とりあえず術で攻撃すればいいのかな?

って、きゃーっ! 攻撃するより早く、ぬいぐるみが迫ってくる―!

「いいかい。周りをよく見て、どう立ち回ればいいかよく考えるんだ。術を使うだけが、戦いじゃない。頭を使って戦わなくちゃ」

逃げ回るわたしを見ながら、アドバイスをしてくる悟里さん。

そ、それじゃあまずは距離を開けて、木の後ろに回り込んで待ち伏せして……痛っ⁉

不意に走った、髪を引っ張られるような痛み。
だけどこれは、ぬいぐるみが攻撃してきたんじゃない。長く下ろしてた髪が、木の枝に絡まっちゃったんだ。

慌ててほどこうとしたけど。と、取れないよー!

焦ってるせいもあって上手くほどくことができずに。そうしている間にも、犬のぬいぐるみが容赦なく迫ってくる。
だけど。

「除霊キィィィィック!」

もうダメだって思った瞬間、近づいてきてた犬のぬいぐるみが、勢いよく吹っ飛ばされた。

一瞬何が起きたか分からなかったけど、隣に立った風音くんを見て、彼が助けてくれたんだって理解できた。

風音くんはもう、悟里さんの必殺技、除霊キックももう使えるんだよね。

あのキックを覚えたいかって言われたら微妙だけど。
風音くんはそのキックで、ぬいぐるみを蹴っ飛ばし、助けてくれたのだ。

「なにやってるの。早く髪をほどいて!」
「そんなこと言われても……ああ、今度は猫ちゃんが来る! め、滅ー!」

慌てて手をかざしたけど、風音くんの時と違って猫のぬいぐるみは一瞬ピタって止まった程度。
矢を放つイメージをしたけど、もしかしたら輪ゴムが当たったくらいのダメージだったのかもしれない。

「きゃー、こっち来るー! じょ、浄!」
「待って、まだ早いって。もっと弱らせてからじゃないと、浄化できないよ!」

そうだった。さっきおさらいしたばかりなのに、パニックになって忘れちゃってた。
これじゃあ浄化できるはずがない。そう思ったけど。

わたしの手から放たれた光が猫のぬいぐるみを包んだとたん、それまで感じていた圧がスッと無くなり。
猫ちゃんはまるで糸が切れたみたいに、コテンとその場に倒れてしまった。

「え、成功したの? マジで?」

キョトンとする風音くん。
正直あたしも、上手くいくなんて思ってなかったからビックリ。

やった。自分の力でやっつけられたんだ。
だけど喜んだのも束の間。引っ掛かっていた髪をほどいたけど、残る七体のぬいぐるみが一度に迫ってきてた。

「そんな、あんなにたくさん⁉」
「後は俺がやるから、トモはさがって。滅! 滅! 滅! 滅! 滅! 滅! 滅!」

すごい。
風音くんが手をかざす度に、ぬいぐるみ達が次々と吹っ飛んでいく。
そして最後に。

「天に星、土に命、還りたまえ……浄!」

まばゆい光が放たれると共に、ぬいぐるみ達に宿っていた力が消えていく。

なんという手際のよさ。
たった一体に手こずっていたわたしとは大違いだ。

「よーし、これにて特訓終了だー。二人とも、よくやったね」

悟里さんはほめてくれたけど、それは違うよ。
よくやったのは風音くんだけで、わたしはたった一体やっつけられるのがやっとだったんだもの。

全然できてない。むしろ足を引っ張ってたんだ。

「やったな、トモ」
「うん……」

満足そうに笑いかけてくる風音くんたったけど、反対にわたしの心は沈んでいる。
ズキリと痛む胸を押さえながら、そっと目を逸らすのだった。