「ごめん、じいちゃんの手伝いしてたら遅くなった。修行、まだ始まってないよな?」
「大丈夫、今から始めるところだよ」
「よかったー。トモ、今日はよろしくー!」

ニカッと笑ってくる彼に、わたしは小さなお辞儀で返事をする。
会ってからまあまあ経ってるのに、まだ風音君との距離がつかめてないんだよね。

悪い子じゃないって言うのは分かってる。
彼はおじいちゃんおばあちゃんと暮らしていて、その二人も祓い屋。
つまり風音くんは、代々祓い屋の家の子なんだって。

そのためか腕はとても優秀で、一緒に修行するといつも力の差を見せつけられるの。
けど実はそれが、苦手意識が拭えない原因なんだよね。

だって一歳しか違わないのに、力の差は歴然なんだもの。風音くんを見ていると、わたしはダメダメなんだって思っちゃう。

逆に風音くんの方は、いつの間にかわたしのことを『トモ』ってあだ名で呼ぶようになって、相変わらずフレンドリーだけど。

「それじゃあ始めようか。二人とも、今日の相手はこれだ!」

実はさっきから気になっていたんだけど、悟里さんは段ボール箱を用意していて。
その中から次々と、ぬいぐるみを取り出していく。

くまさんやうさぎさんといった、合計8体のぬいぐるみが地面に並べられたけど、これが相手ってどういうこと?

「今からあれを、師匠の術で動かすんだよ」

困惑していると、風音くんがそっとささやいてくる。
けど術で動かすって、どう見てもただのぬいぐるみなのに?

「あれらはさ、元は供養を頼まれた、魂の宿ってたぬいぐるみなんだ。もうお祓いはすませてあるんだけど、一度魂が宿った器は、その後も霊的なものを取り入れやすくなるんだよ。見てなよ、師匠が霊力を込めたら、式神として使役できるんだから」
「悟里さんって、そんなこともできるんだね」

式神というのは、祓い屋をサポートして戦ってくれる使い魔みたいなもの。
前に習ったことはあるけど、見るのはこれが初めて。そんなのと戦わなくちゃいけないのかあ。

「式神って、強いのかな」
「あんまり強くないと思うよ。器がぼろぼろのぬいぐるみじゃ、大した力は出せないんだ。まあ心配しなくても、何かあったら俺が守ってやるから、安心しなよ」
「……守ってもらわなくても平気だから」

素っ気ない返事をして、スッと視線をそらす。
つい失礼な態度をとっちゃったけど、わたしは守ってもらいたくないんだよ。

確かに風音くんはわたしよりずっと強いよ。
けどわたしだって強くなりたくて、そのために悟里さんに弟子入りしたんだもの。

霊が見えるだけで、何もできないなんて嫌。
だから風音くんには、頼りたくないんだ。

「さあ、準備は良いかな。いくよ……『操!』」

顔の前で両手を合わせて、術を発動させる悟里さん。
すると今まで横たわっていたぬいぐるみ達が、ムクリと起き上がった。 
あれを、やっつければいいんだね。

わたしは手の震えを抑えながら、動き出したぬいぐるみ達を迎えうった。