「おお、風音か。あたしが帰ってきたって、よく気づいたね」
「外で遊んでたら、ものすごいスピードですっ飛ばしてる車が見えたから、すぐにわかったよ。けどあんな飛ばしてたら、またじいちゃんたちに暴走族の真似をするなって怒られるよ」
「そんな人聞きの悪い。ほんの少しスピードを出しただけじゃないか。ねえ知世ちゃん」

そう言われても。
わたしはそれで、本気で死ぬんじゃないかって覚悟したんですけど。

「ところで師匠、そっちの子は?」
「ああ、今日から一緒に住む、あたしの弟子になる子だよ。ほら、前に電話で話したでしょ」
「へえー、この子が」

その子はトテトテとこっちに近づいてきて。わたしは緊張しながら、ペコリと頭を下げた。

「み、水原知世です。よろしくお願いします」
「知世だね。俺、葉月風音。よろしく」

そう言うと風音ちゃんは、わたしの手をとって握手をしてくる。
緊張しているわたしとは違って、初対面のよそよそしさなんて感じさせないフレンドリーな態度。
あれ、でもちょっと待って。なんか今、違和感があったような。

「風音もあたしの弟子の一人。知世ちゃんにとっては、兄弟子になるかな。歳も同じ小学三年生だから、仲良くしてくれるかな」
「は、はい!」

へーえ、この子も祓い屋見習いなんだ。だから悟里さんのことを、『師匠』って呼んでるんだね。

あれ、でもちょっと待って。さっき、兄弟子って言わなかった? 

わたしは思わず、握られていた手を引っ込める。
突然手を放された風音ちゃん……ううん、風音くんはビックリしたみたいだけど、驚いてるのはわたしも同じ。
だって兄弟子ってことは。

「お、男の子なの⁉」

うそ! 完全に女子だと思ってた。 だって声も高いし、わたしより全然かわいいいんだもん。

「なに? ひょっとして俺のこと、女子だって思った?」
「ご、ごめんなさい」

頬を膨らませて、ムスッとした表情になる風音くん。
そんな仕草も可愛いんだけど、男の子なんだよね。

どうしよう、前の学校では男子に意地悪されてたから、男の子ってちょっぴり苦手なの。
あ、でも風音くんは男の子っぽくないから大丈夫かな? 
って、それはそれで失礼だよね。

「ははは、仕方ないよ。風音はかわいいから」
「かわいいよりも、格好いいって言われたいんだけどなあ。まあいいや、これからよろしく」
「う、うん」

再び握手を求められて、ドキドキしながら改めてその手を取る。
さっきは気づかなかったけど、この固い手触り。確かに男子の手だ。

「なあ、知世はもう、術とか使えるの?」
「う、ううん全然。でもできれば、使えるようになりたい……かも」
「変なの。『なりたい』じゃなくて、なるために来たんだろ。これから一緒に頑張ろーな」

風音くんはもうさっきのことなんて気にしていないみたいに笑っているけど、わたしは失礼な事言っちゃったとか、男子と仲良くやっていけるのかなとか、心配ばかり。

祓い屋の里に来たはいいけど、いきなり不安になるのだった。