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走る車の窓から外を見ると、目に映るのは山や川ばかり。
曲がりくねった山道を、ただひたすら走って行く。

前に住んでいた所も田舎だったけど、ここはそれ以上に何もない山奥。
こんなコンビニもスーパーもない、知り合いもいない場所で、今日から暮らすのかあ。

「どう知世ちゃん。すごい田舎で、ビックリしたでしょ」
「ええと……ちょっとだけ」

運転席から話しかけられて、後部座席にいたわたしは慌てて姿勢を正す。
ハンドルを握るこのお姉さんは、火村悟里さん。
悪霊や行き場を失った幽霊を成仏させる、プロの祓い屋さんだ。

そしてわたしは今日から、本格的に悟里さんに弟子入りするの。
パパとママを事故で亡くして、今までおじさんの家でお世話になっていたけど。
今日からわたしは、悟里さんに預けられることになったの。 
一緒に暮らしながら、立派な祓い屋になれるよう修行をするために。

そして今向かっているのが、山奥にある集落、祓い屋の里だ。

「祓い屋の里って、住んでいる人はみんな祓い屋さんなんですか?」
「ううん、実は祓い屋は一握り。だけど住人はみんなあたし達の事情を知っていて、色々協力してくれてるの。祓い屋として鍛えるための、修行場だってあるんだよ」

修行、かあ。わたしも努力したら、悟里さんみたいになれるかなあ。

こっちに来る前に悟里さんが除霊するところは何度か見せてもらったけど、手をかざして『滅』とか『浄』とか言うだけで、あっという間に成仏させちゃうんだもの。
ただ霊が見えるだけのわたしとは、全然違う。すごすぎるよ。

「どうしたの、黙っちゃって?」
「わたし、ちゃんとやっていけるかなって思って」
「平気平気。里はいい人ばかりだし、小さいけど学校だってあるもの。子供の数は少ないけど、歳の近い子もちゃんといるから、友達だってすぐにできるって」

心配しているのは、そういうことじゃないんだけどなあ。
あ、でも友達のことも確かに心配。前の学校ではずっとぼっちだったから。
今度は仲良くできたら良いんだけど。

「まあ、なるようになるって。それじゃあもう少しだから、飛ばすよー」
「あ、あの、悟里さん。できれば安全運転で……キャ――っ!?」

狭い山道を、信じられないスピードで走らせる悟里さん。
その間わたしは身を縮めながら、どうか無事に着きますようにって、祈りっぱなしだった。

わー、ブレーキブレーキ。
崖から落ちちゃう! 壁にぶつかっちゃう! わたしが幽霊になっちゃうよー!

で、そんなこんなありながらも、何とかたどり着くことができた祓い屋の里。
けど車から降りたはいいけど、頭はガンガンするし目はぐるぐるだしでもうヘトヘト。
車から降りたけど、立っているのがやっとだった。

「気分悪い? ごめん、乗り物に弱かったんだね」
「と、特別弱いわけじゃないんですけどね」

無理やり笑顔を作ってから、傍らにある家を見上げる。

そこは集落の真ん中辺りにある、こぢんまりした、平屋の日本家屋。
築何十年かわからない古い家だったけど、外から見た感じは案外と綺麗だ。
わたしは今日から、ここに住むのかあ。

保護者である悟里さんと二人暮らし。
不安がないって言ったら嘘になるけど、悩んでないで頑張らなくちゃ……。

「あ、師匠、やっぱり帰ってたんだ!」

グッとこぶしを作って気合いを入れていると、突然聞こえてきた子供の声。
悟里さん共々声のした方を見ると、この集落の子かなあ。
そこにいたのはあたしと同じくらいの背丈の女の子。

髪は癖のあるショートカット。紺色のベストにベージュのズボンをはいていて、猫みたいなつり目。
背中まで髪を下ろした地味顔のわたしとは正反対の人懐っこい雰囲気の、かわいい子だった。