◇◆◇◆

幽霊より生きた人間の方が怖いって言いますけど、今回のケースがまさにそれ。
祓いに来たはずが、危うく自分が幽霊にされるところでした。

あれから警察を呼んで、大場さんは逮捕されましたけど、私は私の仕事をするとしましょう。

と言うわけで、アパート近くの人気の無い公園まで移動してきました。

向かい合っているのは、ベージュジャケットを着た30歳くらいの女の人の生霊。もとい寺田さんです。

「いいですか寺田さん。アナタはまだ生きているのです。まずは体に戻って、ご家族を安心させてください。大場さんのことは、後でどうにでもなります」
「そうね。アイツ、逮捕されちゃったし。この手で恨みを晴らしたいって思ってたけど、あんなやつのために罪をおかすこともないか」

吹っ切れたような笑みを浮かべる寺田さん。
さっきは悪霊になっていた彼女ですけど、どうやらもう大丈夫なようです。
これで安心して、送ることができます。

「迷う者、荒ぶる魂、鎮まりたまえ――浄! 寺田さん、目覚めた後も、どうかお元気で」
「うん……ありがとう、優しい祓い屋さん」

にっこりと微笑みながら、寺田さんは消えていきました。

きっと今ごろ、どこかの病院で目を覚ましているはず。後で事務所に頼んで調べてもらいましょう。
けど、その前に今は……。

「お疲れ様、トモ。今回は災難だったけど、これで一件落着だね」

私のことを『トモ』と呼ぶ、私より頭ひとつ分くらい背の高い彼。
つり目で猫っ毛のショートカット、一見するとボーイッシュな女の子のようにも見えますけど、彼はれっきとした男の子。
私のよーく知っている人です。

「あの、いいかげん教えてもらえませんか。どうして葉月くんがここにいるんです? 四国に行っていたはずでしょう」

危ないところを悟里さん直伝の除霊キックで助けてくれた彼の名前は、葉月風音くん。
私と同じ祓い屋で、かつて悟里さんの元で共に修行をしていた、兄妹弟子です。

昔は一緒に修行した仲ですけど、私達祓い屋は常に人手不足。
特に二年前は怪我や育休、その他もろもろの事情が重なって、四国にある祓い屋協会が深刻な状況になっていました。

そこで急遽こちらに、腕のいい祓い屋を貸してくれと要請があり、声が掛かったのが葉月くんだったのですが……。

「ねえ、さっきから思ってたんだけどさ、『葉月くん』って何? 昔みたいに、『風音』って呼んでよ」
「話をそらさないで。ちゃんと質問に答えてください、は・づ・き・く・ん!」

こっちは真面目に話しているというのに、茶化すような彼の態度に目をつり上げる。