「二人とも、よく持ちこたえましたね。特に君、友達を助けるために頑張れるなんて、偉いですよ」
「そんな。僕はただ、怖くて必死になってただけで」
「そんなことないよ。宗太くんがいなかったら、どうなっていたか。ありがとう」

山本さんは満面の笑みを浮かべたかと思うと、なんといきなり抱きついてきた。

突然のことで、目を白黒させる。だけどそれだけじゃ終わらない。
火照った頬に、ちゅっと唇の感触があったのだ。

ま、待って。恥ずかしいよ。お姉さんだって見てるのにー!

けど目をやると、お姉さんは僕よりもずっと顔を真っ赤にしながら、顔を逸らしている。

「と、ととととにかく無事で何よりです。も、ももももう二度と、遊び半分ああいうものにで近づいたらいけましぇんよ」
「は、はい……。あの、そういえばお姉さんは、結局何者なんですか?」

何故か動揺しまくっているお姉さんに尋ねると、まだ少し赤い顔で答える。

「名乗るほどの者ではありません。我を忘れた霊を成仏させに来た、ただの祓い屋です」

◇◆◇◆

大変な目にあったけど、なんとか無事家に帰ってこれて。 僕はリビングのソファーに腰掛けながら、さっき起きたことを思い出す。

赤いシミから伸びてきた腕。危ないところを助けてくれた、祓い屋だというお姉さん。

そして山本さんが「ありがとう」ってほっぺにしてくれた、あの……。

「ただいまー」
「うわっ⁉」

急に姉ちゃんが部屋に入ってきて、驚いた拍子にソファーから転げ落ちちゃった。

「あんた何やってるのよ?」
「べ、べつに何も。それより、今日は早いね」
「ん? いつも通りっしょ。それより、晩御飯まだ。もうお腹ペコペコよ」

帰ってくるなりご飯の話。姉ちゃんは陸上部に入ってて、たくさん走ってるから仕方ないか。

あれ、そういえばさっきは気づかなかったけど。
あの祓い屋のお姉さんが着てた制服って、姉ちゃんが着ているのと一緒だよね。ということは、同じ中学?

「ねえ姉ちゃん。変なこと聞くけど、祓い屋って知ってる?」

ダメもとで聞いたつもりだったんだけど。祓い屋って言った瞬間、姉ちゃんは目を見開いた。

「祓い屋? あんた、祓い屋を知ってるの?」
「う、うん。頭をツインテールにしてて、お姉ちゃんの学校の制服を着た、『祓い屋』って人と会ったんだけど」

何があったのかを簡単に説明する。
オバケに襲われたなんて言ったらバカにされるかもって思ったけど、姉ちゃんは笑わずに。
最後まで話し終わると、納得したようにうなずいた。

「なるほど、世間ってせまいわねえ。知世、今日も仕事があるって言ってたけど、まさか宗太と会ってたなんて。明日あたしからもお礼言っておくわ。その子、姉ちゃんの友達だから」
「えっ?」

驚く僕を見ながら、美樹姉ちゃんはニカッと笑った。