「そう言えばちょっと気になったんだけど。この前のマラソン大会の時、どうしてあたし幽霊が見えたんだろう? 今まで見たことなんてなかったのに」
「それは椎名さんが、取り憑かれた状態にあったからです。普段は見えなくても何かのきっかけで波長が合えば、見えるようになることがあるんですよ」
「なるほど。さすが本職、物知りだね」
「そんなことありません。師匠から教えてもらった事の受け売りです」

照れているのか、顔が赤くなってて可愛い。 

知世は大人と接する事が多かったせいで敬語で話すのがデフォルトになっているらしく、同級生なんだからため口で良いって言っても、直すのが難しいみたい。

あたし以外の人と一緒にいた所を見たことないし、たぶん人付き合いはちょっと苦手なんだと思うけど、間違いなく良い子だ。

それにしても、学校に通いながら祓い屋の仕事もしてるなんて驚きだよ。

「そういえばさ、よく小説を読んでるみたいだけど、漫画は読まないの?」
「漫画はそんなには。けど興味はあります。椎名さんは、何か読んでいるんですか?」
「暇な時はよくね。例えばほらこれ」

あたしはスカートのポケットからスマホを取り出すと、電子書籍を開いた。

これは小学生から大人まで、幅広い層に人気の少女漫画雑誌。受け取った知世は興味津々といった様子で眺めている。

「これが電子書籍。初めて見ました」
「感心するとこそこなの⁉」
「すみません。実はスマホは持っていますけど、全然使いこなせていないんです」

まあ良いけどね。
知世は気を取り直した様子で、今度はちゃんと漫画を読んでいく。

たしか最初に載っているのは映画化も決まった、大人気の恋愛漫画だったかな。
あたしは知世がどんな反応をするだろうと、わくわくしながら見守っていたのだが……。

「こ、ここここれ、主人公の女の子と同級生の男の子が、せ、せせせ接吻してますけど。こ、こんなのを子供が読んで良いんですか⁉」

知世は顔を信じられないくらい真っ赤にして、今にも爆発しそうになっちゃってた。

接吻って、キスのことだよね。
たしかにしてるけど、キスしたのはほっぺだよ? 
なのに真っ赤になっちゃって、反応が面白すぎる。

「ちなみにこれ、小学生でも普通に読んでるから」
「小学生でこれを⁉ す、すみません。私には無理です! 刺激が強すぎます~!」

あー、うん。そうみたいだね。まさかここまで弱いなんて思わなかったよ。 

この前凛とした姿で霊を祓っていたとは思えないくらいオロオロしているけど、これはこれで面白い発見。
また一つ、知世のことを知れてよかったわ。