それから近くにあった公園へと場所を移して、二人してベンチに腰を下ろす。

まずはどうしてモヤに追いかけられていたかを聞かれて、その経緯を説明した。

「なるほどね。けどさっきの男の子たち、助ける必要があったの? こう言っちゃなんだけど、君にイジワルをしてくるような子たちでしょ」

お姉さんの言うことが、わからないわけじゃない。
元々仲が良いわけでも無いし、助けたところで信じてもらえないもの。けど。

「誰かが危ない目にあうのは、嫌だから……」

前の学校にいた時、悪い霊を見ても気づかないふりをして放っておいた事があった。
どうせみんなに言っても信じてくれないって、自分に言い聞かせながら。

だけどそしたら、その霊のせいでクラスの女の子が大ケガをして。もしもあの時動いていれば、こんなことにはならなかったかもって、すごく後悔したの。

だからわたしは、見過ごすなんて出来ない。
たとえ相手が、イジワルな男子だったとしても。

この事は今まで、誰にも話してなかったけど。話を聞いたお姉さんは、うんうんと頷いた。

「そっか。君は誰かが不幸になるのを、放っておけない子なんだね。そういうの、好きだよ」
「あ、ありがとうございます」
「けど、さっきのは無茶しすぎ。もしもあたしが来なかったらどうしてたの? 誰かを助けたいって思うなら、力がなくちゃ」
「それは……ごめんなさい」

確かにその通り。見えはするけど、何もできない自分が情けなくて、泣きそうになる。

わたしもお姉さんみたいに、強かったらよかったのに。
見えるだけじゃ、意味がないもの。

「それじゃあ、今度はあたしの話をしようか。実はあたしが通りかかったのは偶然じゃないの。あの首無し地蔵にたまった悪い気を、祓いに来たんだよ。お姉さんはね、悪霊とか怨念とか、成仏できずにさ迷っている霊を浄化させるお仕事をしている、祓い屋だから」
「祓い屋?」

初めて聞く言葉。さっきお姉さんがモヤを消すことができたのは、祓い屋だからなの?
わたしは逃げることしかできなかったのに、祓い屋ってすごいや。

「ねえ、君さえよければ、あたしの元で修行してみる気はない? そうすればさっきあたしがやったみたいに、悪い気や霊を祓う事ができるようになるよ」
「わ、わたしがですか⁉ 無、無理ですよそんなの」
「無理じゃなくするために、修行するんだよ。君には素質がある。見えるだけじゃなくて、不幸になる人を放っておけない、力になりたいって思えるのは、立派な素質だよ。もちろん、君のパパやママとも相談しなきゃいけないけど」
「え、ええと。実はパパとママは……」

もう亡くなっていて、今は親戚の家でお世話になっていることを話す。

おじさんおばさんは、幽霊が見えるなんて言うわたしの扱いに困っているけど、それでも見捨てずに養ってくれていて。できれば心配はかけたくない。
だけど……。

「修行したいです。おじさんたちには心配かけちゃうかもしれないけど、強くなりたいから」
「よし、そうと決まれば、おじさんたちとも話をしなくちゃね。それに、君の事をもっと教えてくれるかな。これからどんどん、お互いの事を知っていかないとね」

嬉しそうに顔をほころばせながら、ぎゅっと抱き締めて頭を撫でてくれるお姉さん。
お互いの事を知っていく。
そんなお姉さんの言葉を聞いて、自然と涙が溢れてくる。

今まで「はじめまして」と挨拶をした時が人との距離が一番近くて、その後はだんだん離れていく。そのはずだったけど。

お姉さんと一緒なら、そんな自分を変えることができるのかな?

「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。そうだ、まだ大事なことを教えていなかったね。火村悟里、それがあたしの名前だよ。君は?」
「知世……水原知世です」

後にして思えば、この出会いが運命の分かれ道。
それからわたしは、修行と言う名の悟里さんの暴走に振り回されたり、いけ好かない兄弟子と出会ったりするわけだけど。
それはもう少し先のお話です。