誰かと肝試しをするなんて、久しぶりだ。
真っ暗な校舎の中を歩いていき、その途中俺は水原さんに、この学校にまつわる噂を話してみた。

「なんでもさ、昔この学校の生徒で、事故で亡くなった女子がいたらしいんだ。だけど学校が好きだったその子は、自分が死んだことに気付かずに。幽霊になって通い続けたんだってさ。学校自体が廃校になった今でも、一人でさまよっているとか」
「そんな噂が。何だか悲しいですね。死んだことにも気づかないで、ずっと一人だなんて」
「ああ、一人は寂しいよな。おっと、階段上るときは気をつけて」

暗いし、足を踏み外したら危ないからな。
それにしても水原さん、不気味な廃校を歩いているというのに、「怖いー」なんてリアクションの一つもないな。
一人でこんな所に来るくらいだし、肝が座っているのか?

「……杉谷さん」
「ん、なんだい?」
「さっき、一人は寂しいって、言いましたよね。その言葉に、嘘はありませんね?」
「へ? いったい何を言って……」
「ウソハアリマセンネ」

突然、彼女の声が重く、冷たいものに変わった。
それはたずねるというより、まるで有無を言わせないような言い方で。俺は反射的にコクコクと頷いた。

「……ついて来てください。この先に、見せたいものがあるんです」
「ちょっと待てよ、先に行くと危険だって」

だけど彼女は慣れた様子で、暗い校舎の中を進んで行く。
さっきの質問といい、なんか妙だ。

胸の奥がざわざわするのを振り切って水原さんを追いかけたけど。彼女はしばらく行った先、廊下の真ん中で足を止めた。

「ほら、アレを見てください」
「アレは……」

そこにあったのは、床に空いた大きな穴だった。
古い校舎だから、きっと床が腐って崩れたのかな。たぶん穴は一階まで続いているのだと思うが、中を覗き込んでも真っ暗でよく分からない。

「この穴が、どうしたって言うんだ?」
「杉谷さん、さっきこの学校に通っていた、女子生徒の幽霊の話をしてくれましたよね。けど実は、あれはデマなんです。この校舎には元々、幽霊なんていなかったんですよ」

そうなのか? 
いや待て、どうして彼女は、そんなことを知っているんだ?

「ですが、今は出るんですよ。廃校になって、だけど取り壊されること無く何年も経ったある日のこと。肝試しをするため、この学校を訪れた人がいました。だけど二階を散策中に突然床が崩れ、その人は落ちて亡くなってしまったんです。それ以来出るんですよ。幽霊が」

瞬間、全身を凍るような寒気が駆け抜けた。
カメラを持つ手が、ガタガタと震える。この子はいったい、何を言おうとしているんだ? 

ダメだ、ダメだ、ダメだ! 
これ以上喋らせてはいけないと、頭の中で警鐘が鳴る。だけど口はガクガクと震えて、声を出すことができない。

「その死んだ人と言うのはですね……」

止めろ。言うな。止めてくれ!

「………………|杉本克也さん、アナタです」

………………へ?