「上の階の排水管が腐ってて、そこから水漏れしたんだって。それでその工事と、部屋の修繕にひと月は掛かるみたいで」
「ひ、ひと月ですか?」


バイトから帰ってくると、片桐さんは時間を聞いていたからと言って玄関先で椅子に座って待っていてくれたみたい。
私の姿を見ると立ち上がって、大家さんとの会話を全て教えてくれた。
ひと月も家に住めない。その間私はどうしたらいいんだとガックリしていれば、


「ひと月なら俺の部屋に居たらどうかなって。ホテルとか泊まるのも色々大変だろうし。あ、もちろん見ず知らずの俺の部屋の方が嫌だったら、何処か探してみるし」


どうしてそこまで良くしてくれるんだろう。私は片桐さんにこんなに良くしてもらえる理由はないはずで、それを聞けば当たり前のことをしてる風に言うの。


「隣に引っ越ししてきた時挨拶してくれたでしょ。 このアパートに住んで、挨拶に来てくれたのって間宮さんだけで、会えば挨拶してくれるのも間宮さんだけで、凄く笑顔が印象的で何か気持ち明るくなるなって思って。そんな子が、こんな大変な目にあって困ってたら、少しでも手助けしたいって思ったというか」
「……優しすぎです。ふふ。あの、よろしくお願いします!」


片桐さんなら大丈夫って思った。
ほらだっていざお世話になりますって言えば、「え? ほんとに? うわ、そうか」って自分から言い出したのに慌てだすんだ。
顔を真っ赤にして、ヘラッと笑うこの人が悪い人には到底思えない。
こうして私は片桐さんのお宅でひと月だけ居候させてもらえることになったわけだ。





「え、今日も布団良いんですか?」


お風呂に入らせてもらい、頭をタオルで拭っているとパソコンに向かったままコチラを見ない片桐さんは今夜も私に布団を譲ると言う。
昨日も譲ってもらったのに。


「うん。今日もこれやっちゃいたいから」
「そうなんですか」
「気にせず寝て。 おやすみ」
「ありがとうございます。おやすみなさい」


そんな日が数日続いたある日、今日は仕事が休みだったから講義を終えて買い物をして帰宅した。
たまにはお礼に何か作ろうと思った。 昔からおばあちゃんに料理は教わってきたから一通りは作れるんだ。片桐さん肉じゃが好きかな? 男性が喜ぶおかずランキングに入ってたけど……