「アメリア、白い花を見に行こう」
「え」
 まさかこのまま王都の外に行くつもりなのか。
 そう思うと、さすがに足を止める。
「駄目です、危険ですから」
 せめてここにカイドがいれば、アメリアも賛成したかもしれない。けれど彼の護衛は学園の中だけで、今日はもう帰っているだろう。
 たしかにアメリアも少し息抜きがしたいと考えていたけれど、そのためにサルジュの身を危険に晒すことはできない。
「ああ、王都の外に行くつもりはないよ。ここの裏庭だ」
「え?」
「私も研究員に話を聞いてみたが、おそらく同じ花だろう」
 そう言って、アメリアを学園の裏側にある小規模の庭に連れ出す。
 そこには花壇があり、色々な種類の花が咲いていた。サルジュがたまに実験に使っている場所である。
 ここに、その白い花が咲いているのだろうか。
 サルジュはアメリアの手を引いたまま、花壇の奥に進んでいく。
 時刻はもう夕暮れ。
 雲の隙間から差し込む紅い光が、サルジュの後ろ姿を照らしている。
 冷たい風は少し湿っていて、もしかしたら雨が降るのかもしれない。