「白い花か」
 その話を聞いたサルジュは、そう呟いた。
 そしてずっと読み耽っていた分厚い魔法書から顔を上げると、窓の外に視線を向ける。
 アメリアも彼につられて窓の外を見つめた。
 季節はもう秋になろうとしている。
 中庭に植えられている大きな木の葉は、鮮やかな紅色に染まっていた。吹く風が窓枠を軽く揺らすと、まるで花びらのように散っていくのが見える。
 その光景を見ていたアメリアは、ふと去年の秋を思い出す。
 去年の今頃は、そろそろ収穫を迎える農地を見回るために、頻繁に外に出ていた。けれどここ最近は毎日忙しくて、学園と王城の往復だけだ。
 少しだけ、広い農地が懐かしくなる。
 夕陽が地平線に沈み、世界が紅色の染まるあの光景。
 冷たい風が頬を撫で、ざわざわと揺れるのは、もうすぐ収穫を迎える金色の穂。
 生まれ育った土地の、馴染みある景色。
 けれどこれからはこの生活が続いていくのだから、こちらに慣れなくてはならない。
 そう自分に言い聞かせて、自分の魔法の研究に取り組むことにした。