そう言って視線を逸らす。いつも威風堂々とした彼に似つかわしくない憂いの表情に、ひどく心が騒ぐ。
「何かございましたか? わたくしにお手伝いできることがあれば……」
 そう言いかけて、余計なことを言ってしまったと慌てて口を閉ざす。
「申し訳ございません。出過ぎた真似をしてしまいました」
「いや、そんなことはない。自分では意識していなかったが、サルジュに言われてようやく気が付いたようだ」
「サルジュ殿下に?」
「ああ。もし嫌なら断ってくれても構わないのだが」
 ユリウスはそう言葉を切ると、まっすぐにマリーエを見つめた。
「俺の婚約者になってくれないだろうか」
「……、……え?」
 またあのふたりに関することだと思っていたマリーエは、虚をつかれて言葉を失う。
「わ、わたくしが、ユリウス殿下の?」
 衝撃が過ぎ去ると、少しずつ理解が追い付いてきた。
 ユリウスはキーダリ侯爵令嬢との婚約を解消している。他国から縁談を持ち込まれる前に、次の婚約者を決めてしまいたいのだろう。
(つまりキーダリ侯爵令嬢と同じく、仮の婚約者ということかしら?)
 マリーエにはまだ婚約者がいない。
 それがユリウスの身を守るために必要なことなら、喜んで協力しようと思った。