ユリウスは教室内を見渡した。どうやらサルジュの姿はないようだ。また図書館に籠っているのかもしれない。
 ならば自分が止めた方がいいだろう。そう思ったユリウスが教室の中に足を踏み入れると、ふたりの女子生徒ははっとしたように姿勢を正し、カーテシーをする。
「何の騒ぎだ?」
「ユリウス王子殿下。お騒がせしてしまい、申し訳ございません」
 銀色の髪の令嬢が、そのマリーエ・エドーリ伯爵令嬢。そうして茶色の髪の令嬢が、セイラ・カリア子爵令嬢らしい。
「も、申し訳ございません」
マリーエが謝罪すると、セイラも慌てたように続いた。
「誤解があるようだが、教師がなるべく他のクラスを訪問しないように言ったのは私の指示だ。サルジュには静かな環境が必要だということを、理解してほしい」
 そう言ったのは、教師の言葉だけでは、このセイラのように指示に従わない者がいると判断したからだ。マリーエは少し驚いた様子だったが、ユリアンの意図をすぐに悟ったのだろう。
「承知いたしました。友人と会うときには談話室を使うようにいたします」
 マリーエがそう答えたので、セイラもそうするしかないと悟ったのだろう。震える声で承知しました、と呟いた。その瞳は潤んでいて、今にも涙が零れ落ちそうだ。