また仕事の話をしてしまったと反省するが、彼女は顔を上げると、真剣な顔をしてカイドを見つめる。
「わたくしが、アメリア様の護衛騎士になることはできるでしょうか?」
「……はい?」
「女性騎士なら、サルジュ殿下も安心なのでは?」
「それは、そうだが」
 戸惑いながらも頷くと、リリアーネは立ち上がる。
「ソフィア様に推薦していただくわ。わたくしこう見えても、剣術が得意なのです」
「それは、知っている」
 リリアーネはもうすぐ結婚するからと騎士団を辞めていたが、元同僚だ。
 風魔法と剣術の組み合わせは、あのアレクシスも称賛するほど見事なものだった。穏やかで優しい彼女が剣を持つと豹変することを、カイドもよく知っている。
「それにアメリア様の護衛になれば、サルジュ殿下の護衛騎士のあなたとも一緒にいられるわ。休みの日だけでは寂しいもの」
 見惚れるほどの笑顔でそう言われてしまえば、反対することもできない。
 それにリリアーネが傍にいてくれたら、カイドも嬉しい。
 だが婚約者がサルジュより一歳年下のアメリアの護衛騎士になったことで、結婚がまた一年延びてしまったのは、完全に誤算だった。
 研究に没頭するふたりに声をかけ、巧みに休憩に連れ出す手腕に感心しながら、カイドはそんなことを考えていた。


(護衛騎士の婚約者 完)