このビーダイド王国は大陸の最北に位置する。
 けれど天候は比較的穏やかで、冬になっても雪が降るのは国内でもごく一部。年中穏やかで過ごしやすかったはずだ。
 それが、年々寒冷化が進み、今年の冬は王都に初めて雪が降った。珍しい光景に子ども達ははしゃいでいたが、あまりよくないことである。
近年は大陸全土が冷害に悩まされており、食糧不足になりつつある。まだ致命的な状況ではないが、このまま気温が下がり続ければ、どうなるかわからない。
それでもこの国では数年前から冷害に対応した新品種の小麦が作られていて、それが成果を上げていた。今も開発は進められていて、数年後には間違いなく冷害に適応した新品種が完成するだろう。だからこそ、年ごとに酷くなる冷害にも冷静に対応することができている。
国の命綱ともいえる、その新品種の小麦の開発を担っているのが、この国の第四王子であるサルジュだ。彼はまだ王立魔法学園に在学する学生だが、土魔法と植物学を専攻している。新品種も彼がいなければ完成しなかっただろう。
だが冷害に悩まされているのはこの国だけではない。さらに険しい山脈を越えた向こう側にあるベルツ帝国は、こちら側とは違い、雨不足による砂漠化に悩まされているらしい。