婚約者が浮気相手と駆け落ちしました。色々とありましたが幸せなので、今さら戻りたいと言われても困ります。

 ふと、寮内で彼の名前を耳にしたような気がして、アメリアは立ち止まる。
(リース、と聞こえたような気が?)
 振り返ると上級生らしい寮生二人が、こちらを見て何やら囁き合っている。
「あれが例の?」
「思っていたより地味なのね」
 耳を澄ましてみるとそんな悪口が聞こえてきて、アメリアは困惑する。
 ずっと自分の領地で暮らしていたアメリアは、王都に来たのもまだ二度目くらいだ。
それなのに、なぜか彼女達は自分のことを知っているような様子だった。
(どういうことかしら?)
 不思議に思って彼女達を見つめると、アメリアの視線に気が付いたのか、彼女達は少しだけ気まずそうな顔をして、そそくさと離れて行った。
 どうして自分のことを知っていたのだろう。
 リースの名前を口にしていたので、彼の知り合いだろうか。
 だが、それにしてはあまり好意的な視線ではなかった。