「婚約者が浮気相手と駆け落ちしました。色々とありましたが幸せなので、今さら戻りたいと言われても困ります。」

 冬が終わった。
 土を踏み固めただけの簡素な道の傍には、アーモンドの花が咲いている。ひらひらと舞うピンク色の花弁を眺めながら、レニア伯爵家のひとり娘、アメリアは農地の様子を確認するために歩いていた。
 背中まで伸ばした黒髪に、青い瞳。
 手足は少し日に焼けていて、小柄だがしなやかで健康そうな体つきをしている。
 王都から離れたレニア伯爵領は農地が多く、春になると忙しい。
 水魔法が使えるアメリアも、あちこちの農地を回って手伝いをしていた。
 伯爵家の令嬢とはいえ、王都から遠く離れた田舎の地では、こうして畑仕事の手伝いをすることも珍しくない。少なくともレニア伯爵家では、こうすることが当たり前になっていた。