しづき



「隠れないでよ汐月。汐月のかわいー顔見れないなんてなんの拷問?」


「い、今はだめ」


「だめじゃない。手どかさないなら、手首から切り取っちゃおーか?」


「…や、やだ」


「ぼくから汐月を奪うなんて、汐月の体ですら許さないよ。痛いのやなら言うこときいて」



私に触れる手は優しいのに、その唇からは恐ろしいことばかり紡がれていく。



「汐月、汐月ってば」


「も、もう少し待ってください」


「むり。一秒だって待てない」



ちゅと、リップ音。



手の甲にやわらかいものが押し当てられた。



こ、これは…白の唇…



「んっ、や、くすぐったい…」



両手で視界を塞いでいる分、触覚が敏感になる。



白の唇の温かさとかやわらかさとか。



触れるたびに手に取るようにわかってしまう。