「そういえば…白…自分の前していた仕事も忘れてた。昔馴染みだって言っていたあなたのお兄さんのことも知らないって…覚えていないって…」
──『うーん、ちょっと忘れちゃったなーって』
あのとき、のんきに聞いていた白の言葉が脳裏をよぎる。
おかしい。どう考えてもおかしかった。
すべてが。
震えが込み上げてくる。
何も知らない私の隣で、着々と
恐ろしいことが進行している気がして──
「落ち着け、汐月」
「どうして?白は一体なんなの?
わかんない…っ」
たまらず男の腕に縋りついた。
男の目には…昏い色が浮かんでいた。
あんなに危険に光っていたはずの瞳には、どうしようもないほどの哀しみに溢れているようで…
そんな顔をされたら、この胸のざわつきが本物だと脳が勝手に証明してしまう。
「…もうわからない、わかんない───」
「わかるだろ、汐月」
ピシャリと、男は言いきった。



