しづき







驚いたことがあった。



私の隣で、白が運転をしている。



白は車だって持っていた。



ハンドルを操作するその姿は様になっていて、今日の白は綺麗というよりカッコイイ方の白だ。



「少し遠くへ行こーか」

「あ、はい」



知らない土地に、知らない地名。



知らない景色。



だけど白の住む場所は、私が住んでいた所よりもはるかに都会だった。



「白ってなんの仕事してるんですか…?」

「んー?」



スピーカーから音楽が流れる。



私の好きなアーティストの曲だった。



「…ぼく、もう仕事はしてないんだよね」


「えっ…」


「必要ないから辞めちゃった。まぁ、なんの仕事してたか覚えてないんだけど」


「自分の前職忘れますか普通?」



この人、自分の名前すら忘れてたよね…?



いろいろ謎すぎるんだけど。



「忘れるんじゃない?ぼくは汐月以外どーでもいいし」



白は表情も変えずさらりと言ったのだった。