――あの日。 増永さんが、あたしの目に浮かんだ涙に気づいたのかは分からない。 トイレから戻ったとき……、彼はいなかったから。 店長に聞いたら、 「急用ができた」 とかで、オーダーした料理をキャンセルして店を出て行ったらしい。 その日を境に、増永さんはぱったりと店に来なくなってしまった。 カウンターの工事も終わったのに。 彼がいつも座っていた席。 今では、違うお客様が座るようになっていた。