一瞬だけ触れる指先。 ただそれだけで、ドキッとするけれど。 あたしは平静を装う。 伝票に印刷されたバーコードをスキャン。 「九百八十円です」 淡々と会計をこなす。 彼は黒い二つ折りのサイフを取り出して、千円渡した。 おつりを渡すときも、また彼の手に触れた。 「ありがとうございます。またお越し……」 マニュアル通りの挨拶をするあたしの言葉を、はじめて彼が遮った。