下校時刻が近づいた頃、校門に向かって歩いている私に珠洲島君がそう聞く。

「あ、あっち……だけど。」

 私が指さしたほうに視線を動かすと「じゃ、帰ろ?」と言ってきた。

 でも……。

「珠洲島君の家は?」

 そう気になって聞いてみると珠洲島君は「同じ方向だよ。」と言ってくれたので、安心した。

 珠洲島君が家に帰るの遅くなったらダメだもんね!

 一息ついてから、私は珠洲島君の後に着く。

 私と珠洲島君は夕日色に染まった通学路を歩き出した。



「今日、ほんとにありがとね。」

「え?……あぁ、あれの事?」

 一瞬何のことか分からなかったけど、さっきの件だと思いそう返す。

「どういたしまして。」

 出来るだけ短くそう言うと、珠洲島君は苦笑いを浮かべた。

「……風音さん、不器用だって言われない?」

「……言われない。」

 だって本当に言われたことないだもの。

 本当のことを言ったつもりだったのに「そんなことないでしょ。」と帰ってくる返事。

 いや、お姉ちゃんからも言われたことないんだけどな……。